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京鹿の子絞 片山文三郎商店

「京鹿の子絞」の伝統から新たなモードを

呉服問屋のまちとして知られる室町通には、きものや帯を扱う昔ながらの商家が軒を連ねる。

蛸薬師通を東へ折れると、色鮮やかなのれんが見えた。ここが“京鹿の子絞”の伝統を一筋に守り継ぐ片山文三郎商店だ。というと、かなり堅苦しい老舗のように思われるが、こちらのお店はそうした印象とは少し異なるようだった。

昭和初期に建てられた古い京町家の戸口には、“Tie-Dye STUDIO in KYOTO”という英字の看板。格子窓から覗いて見えるディスプレイは、何やら華やかで個性的なモードファッションのようだ。

「昔は商談や仕事場として使っていた間を、昨年からショップとして開放しましてね。私がデザインした絞りのスカーフアクセサリー、洋服をどなたにも見ていただけるようにしたんです。」

お店の奥からにこやかに出迎えてくださったのは、三代目当主の片山一雄さん。

土間から一段高い広間に上がらせていただく。そこには、モダンで斬新な片山文三郎商店の世界が広がっていた。

片山文三郎商店外観
昔ながらの京町家の一間がショップに。片山さん考案の竹ハンガーに、絞りのブラウスやスカートが並ぶ。

絞りとスカーフの運命的な出会い

「京鹿の子絞の技術をもとに、新しい工芸品をつくれないだろうか・・・と考えたのは今から15年前くらいですね。きもの以外のもので、もっと気軽かつリーズナブルに絞りの魅力にふれてもらえたらと思って。」

と語る片山さん。のれんやタペストリーを手始めに、やがて劇的な出会いとなったのは、“スカーフ”だったとか。

「絞りは独特の立体感を表現できますからね。絞りはスカーフにむいてる!と発見したんです。」

以来、片山さんは様々なスカーフのデザインに着手。大きなツノのような立体感がユニークな「つんつんスカーフ」は、薄い絹地に“唄(ばい)絞り”という技法を使ったもの。

また、布の左右に正確な運針を走らせ、染めた後に糸を解くと美しいプリーツが生まれる“杢(もく)絞り”の「プリーツスカーフ」も、片山文三郎商店のオリジナルデザインだ。

もちろん、全て手仕事でつくられるため、厳密な意味では1点たりとも同じものはない。

「立体感のある布なので、結ばなくてもさっとまとうだけで、形がきまります。お手持ちのジーンズからお出かけ着まで、シックにも華やかにも演出できますよ。」

と、コーディネートのコツも教えてくださる片山さん。

糸で絹地をツノ型に絞りあげた“唄絞り”。染める工程に入る前の状態
春らしい杢絞りのスカーフとスカートを合わせたスタイル。繊細な透け感も美しい。

N.Y.の美術館にデビュー、SHIBORIアクセサリー

2005年春、片山文三郎商店の作品はニューヨーク近代美術館MoMA(The Museum of Modern Art)のカタログにも掲載された。“塩縮唄絞り(えんしゅくばいしぼり)”という特殊な技法を用いたネックレスだ。

見たところ、15センチほどのバンドのように思えるが、これが驚くほど伸びる。頭からすっぽりとかぶって首にあしらうだけで、とてもおしゃれなネックレスに早変わりするのだ。

絞りの根元部分を塩で縮ませることで、さらにメリハリのついた“つんつん”が、絶妙な味わいを見せる。現在この技法を使うことができるのは、片山文三郎商店だけなのだそう。

「手に取った状態と、あしらった状態に劇的な変化が生まれるのが、面白いでしょう。絞りの布は変幻自在です。その変化を、様々な感性で楽しんでもらいたいですね。日本の展示会でも外国人の方には好評ですが、ニューヨークの皆さんはどんなスタイルにアレンジされるのか楽しみです。」

と、微笑む片山さん。

ビビットな色づかいが個性的なネックレス。リーズナブルな価格もうれしい。
桜紋に「文」の字が入った片山文三郎商店のネームにも、細かなこだわりが。

「手絞り」にこだわり続ける理由

最後に、“京鹿の子絞”についてふりかえってみよう。

この技法は京都の代表的な染色技法として、京友禅・西陣織と並び知られる。しかし、京鹿の子絞のルーツとなる“絞り染め”の歴史が最も古い。

絞った部分だけが染まらずに残ることで文様を生み出す、原始的で素朴な技。かつて、文様を染めるにはこの技法しかなかった。

ところが後に、文様を自由に表現できる西陣織、江戸時代には京友禅が誕生し、絞り染めは独自の表現を模索しはじめる。そこで生まれたのが、絞り独特の凹凸で文様を表現する“京鹿の子絞”だ。文様が子鹿の斑点に似ていることから、この名で呼ばれるようになった。

「一粒一粒、絹糸で手絞りするんです。今は、道具を使って木綿糸で絞る方法が多いですけど、京都ではあくまで絹糸の手絞りが基本。22本取りの絹糸を広げながら、根元までしっかり巻くので、染まらない部分の白さが際立ちます。だから、全体の模様がすっきりと洗練されて見えるんですね。極めて精緻な仕事ですけど、機械では決して表現できない手仕事ならではの味わいがあります。」

と語る片山さん。これぞ、片山文三郎商店が“手絞り”にこだわり続ける理由である。

京鹿の子絞の伝統を呉服という形で守り続ける一方で、手絞りの多彩な魅力を現代に伝えていこうとする片山さん。私たちも暮らしの中で、その繊細な美しさを身近に感じてみたい。

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「海外の雑誌なども見ながら、デザインのアイディアを練っています。」自らデザインしたジャケットを羽織る片山一雄さん。
生地に記された点々を、一粒一粒丁寧に絹糸で手絞りしていく。
(左)京鹿の子絞は、図案・下絵・絞り・染め・絞り解き・湯のしまで、全工程が分業で行われる。写真は、この道50年という絞りの職人さん。(右)片岡文三郎商店でつくられた、総絞りの呉服「本疋田地振袖 滝に波頭」
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