国内唯一の手摺木版本出版社 版元 芸艸堂

木版画という伝統芸術を今に伝える版元

コピー機やプリンターを使えば、ボタンひとつですぐに複製の印刷物を手にすることのできる現代。その印刷技術の原点ともいえるのが、木版印刷である。 印刷には、凸版(とっぱん)印刷と凹版(おうはん)印刷、そして平版、孔版の4種類がある。一般的な凸版は、色を付けたい部分を突出させ、そこにインクを載せて印刷する方法で、木版印刷もこれにあたる。

「今機械を使えば、一瞬で印刷の基となる版を作り、それを使って大量の物が刷れますよね。しかし木版印刷は、職人が木を削って版木を作り、それを何回も手摺りしてできるんですよ。」

そう説明してくださったのは、明治24年に木版摺技法による美術書出版社として創業した「芸艸堂(うんそうどう)」の山田博隆さん。

中国から木版印刷の技術が伝来した後、日本では仏教信仰と結びついて、「印仏」という木版の小さな仏像画が生まれた。木版画はここから発展し、絵師の才能と職人の高い技術によって、世界に誇るべき浮世絵へと繋がるのである。

芸艸堂の看板。'芸艸'とはミカン科の多年草で強い香りにより害虫から書籍を守る役割を果たしていたそう。
たくさんの商品が並ぶ店内

色の数だけ版木がある 高い技術を誇る職人技

「印刷の技術は、経典の普及に伴い発展してきました。かつては写経していたのですが、印刷することで効率的に経典を作成できるようになったんですね。 やがて黒一色だった版画に他の色が用いられ、江戸時代には仮名草子や浮世草子などの挿し絵用として、多色刷りが行われています。版画に多色刷りを取り入れたのは、日本が初めてなんですよ。」

とはいえ、色を増やそうとすれば、色の数だけ版木が必要になる。同時に、版木の数だけ摺(す)る回数があるので、それだけ手間も増えるということだ。また、1枚の版木で幾度も摺ることもあり、多いものでは“76版224度摺り”(76枚の版木を使用して224回摺り)という作品もあるという。

世界最大にして最多色の木版画といわれるのは、京都仁和寺の国宝「孔雀明王像」(右絵)の木版画。畳一畳分ほどの大きさがあり、平成2年に再摺りされた際には、22枚の版木でなんと1,380度摺りを行ったという。

「1,300回以上摺っても、ずれることなく色を重ねられるのは、職人さんたちの技術の高さですよね。版木が古いので歪んでしまっているのも多く、それらをぴたりと合わせるのが大変だったと聞いています。」

店の奥にある版木蔵には、今まで芸艸堂が手掛けた木版画の版木が積み上げられており、その数およそ10万枚。版木と版木の間には新聞紙が挟まれ、その新聞の日付からも、芸艸堂の歴史がうかがえる。

孔雀明王像の全体孔雀明王像
膨大な数の版木が収納されている版木蔵

一流の職人によるものだから価値がある

著名な作家の絵画、色紙や屏風など、様々な木版画を手掛ける芸艸堂。人気は伊藤若冲や神坂雪佳など、構図や色彩感覚豊かな絵画の木版画だ。

「木版画は和紙に摺るので、時の流れに従って、徐々に和紙と顔料がなじんで美しく発色するんですよ。それがまた、味わい深いところですね。」

絵師によって描かれた絵を元に、彫師(ほりし)が何枚もの版木を制作し、摺師(すりし)が寸分違わず手漉きの和紙に摺る。手間とコストがかかる木版本の出版を手掛けているのは、日本では芸艸堂だけだ。

「木版画は伝統芸術です。手間暇掛かっても、職人が手作業で作るところに、その価値や味わいがあるんです。」
「日本国内のみならず、海外からの問い合わせも多いですよ。」と語る山田博隆さん。
若冲書譜と「やまざくら」

▲伊藤若冲の貴重な木版画集。今でも人気の品「やまざくら」の作品

江戸美人 江戸美人
江戸美人

▲上村松園の木版画集。あでやかな着物の図柄も摺りだされている「江戸美人」。

2008年5月 取材

版元 芸艸堂のページを見る

狗児-神坂雪佳 木版画
狗児
- 神坂雪佳 木版画 -
八橋-神坂雪佳 木版画
八橋
- 神坂雪佳 木版画 -
蝶千種 海路-神坂雪佳-
蝶千種 海路
- 神坂雪佳 -
凱風快晴(赤富士)-葛飾北斎
凱風快晴(赤富士)
- 葛飾北斎 -
神奈川沖浪裏-葛飾北斎
神奈川沖浪裏
- 葛飾北斎 -
ページの先頭へ